ScAlMgO4単結晶
ScAlMgO4(SAM)単結晶
ScAlMgO4(SAM)単結晶 は、米国ベル研究所で1995年に高輝度のGaN LED用結晶基板として開発されましたが、結晶作製が非常に難しく、研究が進展しませんでした。当社は、チョクラルスキー法(回転引上げ法)により世界で初めて直径4″の単結晶作製に成功しました。さらに、直径2″では無転位結晶の作製にも成功しました。直径6″大口径技術の開発にも取り組んでいます。
SAMウエハは、LED、LD、FETなどのGaNデバイスの基板として有望です。SAMウエハ上に製造されるGaN自立基板は、自動車用途のGaNパワーデバイス用途に期待されています。
直径2″無転位SAM結晶をもとに、格子整合するInGaNや(InGaAl)Nの無歪低転位テンプレートの作製の開発に着手し、窒化物半導体の作製など新しい展開にチャレンジしています。
特徴
- GaNと格子不整合率小(不整合率 1.8%)
- InGaN と格子整合
- GaNと熱膨張率差小(膨張率差 0.6%)
- 劈開(へきかい)によってエピレディー基板を作製可能
- 無転位結晶を作製可能
- Siに匹敵する高品質結晶可能
GaNの格子不整合率小、および熱膨張率差小
ScAlMgO4とサファイアの比較
劈開性
SAM 単結晶量産技術
直径3″SAMインゴット
無転位ScAlMgO4
種結晶から直径2”結晶作製条件までを見直し、直径2”の無転位SAM単結晶作製に成功しました。c面ウエハのX線トポグラフィ (XRT) の結果からほぼ全面無転位であることが判りました。半導体関連ではSi以外にInドープGaAsやSiドープGaAsの例はあるが、4元素からなる多成分系結晶における無転位は過去に例がありません。X線ロッキングカーブ(XRC)の半値幅は7.2arcsec.であり、Siに匹敵する高品質であることも判りました。
期待される用途
- ・パワーデバイス向けGaNの基板
- 東北大学松岡教授等の研究結果
- ・高周波デバイス用GaN
- 自立基板GaNは 次世代携帯電話5G用基地局の高周波デバイス用にも注目されている。
- ・深紫外AlGaN LED用 AlN
- GaNに続いてScAlMgO4基板上のAlNへの関心も高まり、殺菌効果のある深紫外AlGaN光源への応用が期待されている。
- ・格子整合するInGaN
- InGaNテンプレートは全窒化物半導体によるフルカラーLEDやレーザーにも期待され、無転位ScAlMgO4基板上にInGaNに成長し、
無転位のテンプレートの開発も進められている。
2″φScAlMgO4基板上にMOVPE法で成長した
膜厚3μmGaNのテンプレート(5)
InGaNテンプレート基板
京都大学川上教授等の研究結果
光デバイス用途の広がり(7)
解説
ScAlMgO4 (SAM)は,Sc2O3, Al2O3, MgOの3成分系の結晶材料である。SAM粉末は1989年N. Kimizukaにより発見(5)され、1995年AT&T Bell研により開発が開始された(6)。2004年福田等はZnO基板用にしてCZ法によるSAM単結晶作成に着手した。2010年からは福田結晶技術研究所が、C. D. Brandle博士や米国最大手LEDメーカーのPhilips LumiLeds社と共に開発を進めてきた 。その後、東北大学松岡教授とパナソニック(株)及びNEDOとの開発委託により研究を行った。
すばらしい結晶ScAlMgO4新素材発掘の経緯
SAMは RFe2O4型結晶の一つである。RFe2O4はRO6の八面体層とFeO5の両錐多面体層がc軸方向に積層して構成された結晶構造を持つ。SAMは、空間群R3 ̅mで格子定数が常温(303K)でa = 0.3249(1) nm, c = 2.5142(8) nm(3)であり,ScO6と(Mg/Al)O5の多面体の層が積層した構造となっている。関連する結晶のa軸の格子定数の中で、SAMのa軸の格子定数は、ZnO (a = 0.3253 nm)やGaN (a = 0.3190 nm)と非常に近い。エピタキシャル用基板に通常使われるAl2O3(a = 0.4758 nm)とは格子不整合がそれぞれ3.2%(ZnO),4.9%(GaN)であるのに対し,SAM基板であれば格子不整合がそれぞれ0.13% (ZnO)、1.8% (GaN)と非常に小さい。格子定数の温度依存性を確認した研究(7)によれば、a軸の線熱膨張についても、SAMの方がAl2O3よりもGaNやZnOとの相違が小さく、特にGaNとのマッチングが良い。さらに,1000℃ NH3/H2雰囲気下でも化学的に安定で,酸にも強いという特徴を持ち、GaN用基板として非常に期待されている材料である。
また、SAM単結晶は c面に平行な劈開面を持つ。この劈開性を利用することで非常に平坦な400μm厚さのエピレディのc面基板としての供給が可能である。劈開面の結晶性は非常に良く,例えば 00018回折のロッキングカーブでFWHM=12.99 arcsecを示すなど,シリコンの完全結晶に近いような値が得られている。
参考文献
- 白石 裕児、南都 十輝、福田 承生、家地 洋之, 第80回応用物理学会秋季学術講演会, 18p-E207-6 (北海道大学, 2019年9月18日-21日).
- 稲葉 克彦、リガクジャーナル、51、No.1、6-12(2020).
- T. Fukuda, T. Matsuoka, and S. Suzuki, ICPSCG10, (Zakopane, Poland, Oct. 15 – 21, 2016).
- K. Ohnishi, T. Matsuoka et al., Appl. Phys. Express, 10, 101001 (2017).
- SEMICON Japan 2019の福田結晶技術研究所ブースに展示 (東京ビッグサイト, 2019年12月11日-13日).
- T. Ozaki, M. Funato, and Y. Kawakami, Appl. Phys. Express, 12, 011007 (2019).
- 福田承生、D. Ehrentraut、鏡谷勇二、石黒徹、横山千昭, 第2回窒化物半導体応用研究会, (愛知県産業貿易館, 2008年6月27日).